令和6年度から、処遇改善加算が一本化されました。が、従業員の皆さまの賃金はアップしているでしょうか?
全額返金を含めた返金のリスクを減らし、適切な運用をするためにも、処遇改善加算に関する制度をきちんと理解し、安定的な賃金管理をしていく必要があります。
安定的な運営をしていくためには、報酬をアップすることはもちろんですが、従業員の皆さまの賃上げもすることで働き方の質も上がり、結果的に成し遂げるべき支援につながるものと考えます。
ということで、処遇改善加算について少し整理してみようと思います。
令和6年6月から処遇改善加算の一本化が始まっています。
具体的には、これまでの
- 処遇改善加算Ⅰ〜Ⅲ
- 特定処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ
- ベースアップ等支援加算
から、
- 福祉・介護職員等処遇改善加算(新加算Ⅰ〜Ⅳ)
に一本化されています。

3つの加算がドッキングされたわけでして、最終的にはシンプルになるとされていますが、そこに行き着くまでにはいくつも乗り越えなければいけないことがたくさんあるようです。

一本化とは言っても、実は中身(要件)は複雑なままだったりします。
令和6年度いっぱいかけて整備するべきことがあるので、しっかり押さえましょう!
まず、処遇改善加算の目的を押さえておきましょう。目的は、
☑従業員の定着
☑賃金アップ
となります。
令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%従業員のベースアップにつながるよう取り組んでいく必要があります。
次に、要件は大きく3つあり、一つひとつに細かい取り決めがあります。ただ、枝葉の部分はシンプルなものばかりなので、そんなに怖がる必要はないと思います。

新加算の完全施行は令和7年度からなので、それまでにもろもろ準備する必要があるものを整理しましょう!
3つの要件とは、
- キャリアパス要件
- 月額賃金改善要件
- 職場環境等要件
となります。具体的には、厚労省発行のリーフレットを添付しておきます。


令和6年度は猶予期間であり、猶予期間内に諸々の要件を満たすよう整理する必要があります。既に処遇改善加算(Ⅰ)と特定処遇改善加算を取得しているのであれば、網羅できるものになると思います。


この加算の一番のネックは、月額賃金改善要件Ⅰだと思います。令和7年度から適用できるように今から整備しておきましょう。

ちなみに、職場環境等要件は、「令和6年度中」と「令和7年度以降」で違う項目・内容が定められています。
☆令和6年度中の職場環境等要件
区 分 | 内 容 |
入職促進に向けた取組 | ・法人や事業所の経営理念や支援方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化 |
・事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築 | |
・他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経営者・有資格者にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築 | |
・職場体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力向上の取組の実施 | |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | ・働きながら介護福祉士等の取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い支援技術を取得しようとする者に対する喀痰吸引研修、強度行動障害者支援者養成研修、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等 |
・研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動 | |
・エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等の導入 | |
・上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等に関する定期的な相談の機会の確保 | |
両立支援・多様な働き方の推進 | ・子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指すための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備 |
・職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備 | |
・有給休暇が取得しやすい環境の整備 | |
・業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実 | |
・障がいを有する者でも働きやすい職場環境の構築や勤務シフトの配慮 | |
腰痛を含む心身の健康管理 | ・福祉・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、介護ロボットやリフト等の介護機器等の導入及び研修等による腰痛対策の実施 |
・短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業者のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 | |
・雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施 | |
・事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 | |
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための業務改善の取組 | ・タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減 |
・高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳、下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提供)等による役割分担の明確化 | |
・5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備 | |
・業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減を行っている | |
やりがい・働きがいの構成 | ・ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の福祉・介護職員の気づきを踏まえた勤務環境や支援内容の改善 |
・地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施 | |
・利用者本位の支援方針など障がい福祉や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供 | |
・支援の好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供 |
☆令和7年度中の職場環境等要件
区 分 | 内 容 |
入職促進に向けた取組 | ①法人や事業所の経営理念や支援方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化 |
②事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築 | |
③他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経営者・有資格者にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築(採用の実績でも可) | |
④職場体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力向上の取組の実施 | |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | ⑤働きながら国家資格等の取得を目指す者に対する研修受講支援や、より専門性の高い支援技術を取得しようとする者に対する各国家資格の生涯研修制度、サービス管理責任者研修、喀痰吸引研修、強度行動障害者支援者養成研修等の業務関連専門技術研修の受講支援等 |
⑥研修の受講やキャリア段位制度等と人事考課との連動によるキャリアサポート制度等の導入 | |
⑦エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等の導入 | |
⑧上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等に関する定期的な相談の機会の確保 | |
両立支援・多様な働き方の促進 | ⑨子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指すための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備 |
⑩職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備 | |
⑪有給休暇を取得しやすい雰囲気・意識づくりのため、具体的な取得目標(例えば、1週間位上の休暇を年に●回取得、付与日数のうち●%以上を取得)を定めた上で、取得状況を定期的に確認し、身近な上司等からの積極的な声かけ等に取り組んでいる | |
⑫有給休暇の取得促進のため、情報共有や複数担当制等により、業務の属人化の解消、業務配分の偏りの解消に取り組んでいる | |
⑬障がいを有する者でも働きやすい職場環境の構築や勤務シフトの配慮 | |
腰痛を含む心身の健康管理 | ⑭業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実 |
⑮短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業者のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 | |
⑯福祉・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援やリフト等の活用、職員に対する腰痛対策の研修、管理者に対する雇用管理改善の研修等の実施 | |
⑰事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 | |
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための業務改善の取組 | ⑱現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している(※必須) |
⑲5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備を行っている | |
⑳業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減を行っている | |
㉑業務支援ソフト(記録、情報共有、請求業務転記が不要なもの)、情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末等)の導入 | |
㉒介護ロボット(見守り支援、移乗支援、移動支援、排泄支援、入浴支援、介護業務支援等)又はインカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(ビジネスチャットツール含む)の導入 | |
㉓業務内容の明確化と役割分担を行い、福祉・介護職員が支援に集中できる環境を整備。特に、間接業務(食事等の準備や片づけ、清掃、ベッドメイク、ゴミ捨て等)がある場合は、いわゆる介護助手等の活用や外注等で担うなど、役割の見直しやシフトの組み換え等を行う | |
㉔各種委員会の共同設置、各種指針・計画の共同策定、物品の共同購入等の事務処理部門の集約、共同で行うICTインフラの整備、人事管理システムや福利厚生システム等の共通化等、協働化を通じた職場環境の改善に向けた取組の実施 | |
やりがい・働きがいの構成 | ㉕ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の福祉・介護職員の気づきを踏まえた勤務環境や支援内容の改善 |
㉖地域社会への参加・包容(インクルージョン)の推進のため、モチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施 | |
㉗利用者本位の支援方針など障がい福祉や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供 | |
㉘支援の好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供 |
さて、処遇改善加算とは、
- 障がい福祉サービス等に従事する福祉・介護職員の賃金改善のためのもの
- 昇給と結びついた形でのキャリアアップの仕組みを構築するもの
このために事業者に支給される報酬であるため、本加算による報酬はすべて従業員に賃金改善として支払わなければなりません。要は、法人の利益にしてはいけないわけでして、1円でも多く使い切る必要があります。
放課後等デイサービスの場合を例に、本加算の報酬の目安について整理してみます。
【1事業所あたりの月の売上を 2,300,000円 としたとき】 新加算Ⅱの場合、加算額は301,300円/月(※) (※)2,300,000円×13.1% この分は、基本給のベースアップ、手当、賞与、法定福利費(処遇改善加算等の賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分)に充当することができる。 ⇓ 結果的に利益率は上がる!! |

ただし、賃金改善払い出しができていない等、制度の理解が伴わないまま運用を行ってしまうと、最悪の場合、全額返還のリスクを背負うこととなり、予定外の支出をすることにもなりかねません。
そのため、一本化に伴って、令和6年度中に以下の取組を行いましょう。
- 処遇改善加算の制度理解
- 各要件を満たす準備、対応(特に月額賃金改善要件)
- 報酬の設計(月次、年間予想)
- 賃金改善額の設計
- 社会保険労務士との賃金体系相談、就業規則・賃金規定等の改定
- (必要に応じて)社会保険労務士とキャリアアップ助成金の絡みで処遇改善加算との調整
なお、社会保険労務士や税理士と提携されている事業所は、こちらと連携の上対処されることをオススメします。
【参考資料:厚労省リーフレットより】







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